「今、陸でエンジンかけてる真後ろから電話してるけど、聞こえるだろ?」

初めてのスズキ4ストローク船外機を実装した1997年。
取り付けた最初のエンジン始動で、当時社長だった現会長が、担当営業Yさんに感動のあまりエンジンの真後ろから電話をかけたのでした。

DF70L 初期型の70馬力。

当時他のメーカーはその馬力帯はまだキャブレター。

スズキはインジェクションを最初から採用していて、担当営業さんが熱心に説明してくれました。

売り込むのではなく、想いを語る。

それが技術屋の胸に刺さりロッキーマリン第1号のスズキDFシリーズの爆走につながっていったのです。

スズキ4ストローク船外機のファーストバイトになったボートは、ボストンホエラー17モントークでした。

掲載している写真は同型艇・同型機で実艇そのものではありません。
けれど、このあと同じ組み合わせが驚くほどの数生まれていくことになります。
それは、艇の持つ底力や魅力を、エンジンが引き出していく好事例となりました。

ボストンホエラー17モントークに続き、F230HT×DF70X、FK21×DF70X。

立て続けに3機&2艇のスズキブランドを真鶴の海に浮かべることができました。

まだまだ高馬力帯が出そろっていなかったころ。

F230HTに搭載されたDF70 Xは、近場の釣りはもちろんのこと、初島や熱海、小田原沖などに船とオーナーを運んでいきました。

正直、トップスピードは抑えめだったけれど、スズキの特性である初動、つまり低回転域のパワーは初期型DF70でもそのトルク感は大きな手ごたえとして感じられました。

20年以上前に世に出た4ストローク船外機byインジェクション仕様。

正直なところ、
潮水の上で使うエンジンに
「インジェクションなんて、本当に大丈夫なのか?」
そんな不安がなかったわけではありません。

塩害。
湿気。
長期間の係留。

陸上とは、まったく条件が違う世界です。

けれど――
今、こうして振り返ってみると、インジェクターの交換やデリバリーパイプの交換を行った記憶は……
1回あるかないか。

もちろん、定期的なメンテナンスは欠かせない。
けれど、
「インジェクションだから壊れる」
と感じた場面は、ほとんど思い浮かばないのです。

むしろ、安定した始動性、
燃焼の素直さ、
扱いやすさが、
長い年月の中で
静かに信頼へと変わっていった。

当時はまだ、
「新しい技術」だったものが、
気づけば
「当たり前」になっている。

それこそが、
本当の意味での
革新だったのかもしれません。

数年後のこと。

スズキマリンのミーティングで当時の社長が実例を紹介された中で、

「〇〇マリンは、最初に取り付けたDF70の陸上試運転で、エンジンの真後ろから担当営業に電話で『静かだろ?いまエンジンかけてるんだよ』と言ってくれました。」

心の中で、うちのことだとガッツポーズを決めてみました。